Ⅵ.楽器

King Master Model Cornet B♭/A

もはや“トラッド・ジャズ専用楽器”となってしまったロング・コルネット。
ジャズ草創期のアメリカでは“ラッパ”といえばロング・コルネットのことでしたが、現在は衰退し絶滅の危機にあります(吹奏楽で使われるショート・コルネットはそれなりに流通しています)。

僕が現在使用しているロング・コルネットは

“キング社 マスターモデル・コルネット”

です。

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シリアルナンバーは#277915、1946年製のヴィンテージモデル。
同型の銀ベル仕様“Silvertone”“Silversonic”の方が有名ですが、このモデルを使用したジャズマンにはNat Adderley、Rex Stewart、Wild Bill Davisonなどがいます。

ラッカーはほとんど剥がれ、メッキ&再ラップしたピストンも気密はスカスカ。バネの工夫と硬めのスライドグリスで抵抗感を確保している状態です。
まあ、手間がかかるのはヴィンテージ楽器ならではの楽しみだと考えています。

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特異な点は、バルブを一周するチューニングスライド。この巻き方の楽器は今や見ることもないでしょう。進化途上の生物のような、グロテスクな魅力を放っています。
そのスライドには“マイクロ・チューニング・システム”という、ダイヤルを回して少しづつチューニング・スライドを動かせる仕掛けが付いています。
このダイヤルは、主管を目一杯伸ばしたときの抜け落ち防止ストッパーでもあり、これによりA管として使用出来るとのことです(1~3番スライドの替え管はなく、抜いて伸ばします)。
3番スライドはフックがありませんが、長めに作られているので自力でピッチ補正する前提なんでしょう。

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チューニング・スライドの先、3番ピストンに入る直前の曲がり角には補強のためのパッチが当ててあります。細かな部品も響きや吹奏感を左右するものですが、“穴空いたらふさぐ”というヴィンテージ楽器ならではの無骨さが僕は好きです。

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ベルには巻き返しではなく、後付けの縁輪が溶接されています。分厚いベルで、仏壇の御鈴のようにチーン…と響きます。

ロング・コルネットは、コルネットとトランペットの合いの子みたいな楽器で、音色や表現力は最近の“モネ”などの楽器を彷彿とさせます。でもトランペットよりコンパクトで疲れにくく、ベルの位置的にも音質的にもモニターしやすいので、音を飛ばすことを諦めさえすれば圧倒的に扱いやすく、親しみやすい楽器だと思います。

もともと僕はコルネットの音色やニュアンスを求めてトランペットを吹いてきたところがあり、ロング・コルネットはうってつけの楽器でした。
もう一度ロング・コルネットが見直されてもいいんじゃないかと僕は思っています。



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Bach Early Elkhart

僕がいまメインで使っているトランペットはBach180ML 37/25というありふれたモデルですが、

“アーリーエルクハート”

と呼ばれるヴィンテージモデルです。

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シリアルナンバーは#31134。1965年製。
創業者Vincent Bach氏が生前、工場をインディアナ州Elkhartに移転させて間もない頃に作られた楽器です。

トランペットは使用により管体そのものが磨耗してゆくので、寿命が短く、実用に耐え得るヴィンテージ楽器がなかなかありません。この楽器はラッカーこそほとんど残っていませんが、わりと良い状態で残っていたものです。
(Old Bachユーザーの多くが“アルティザン”に乗り換え、中古市場には程度の良いOld Bachが結構出回っているようです)

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現行Bachとの違いは、

①2ピース構造のバルブケース
②真鍮製バルブガイド
③1番管の構造・トリガーなし
④サイドシーム・ベルに「CORPORATION」の刻印
⑤尾ヒレ付き・華奢な指掛け
⑥大きな延べ座

などがよく知られていますが、よく見ると他にも

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⑦各述べ座のクランクが丸みを帯び、ペン先部分に厚みがある
⑧3番管ロッドが固定式
⑨各スライド外管・内管の長さ割合が現代のものと違う

といった外見上の違いが見られます。
つまりこの楽器は、それ以前のマウントバーノン(Elkhart移転前にBach工場があった場所…ニューヨーク州Mt.Vernon)時代の特徴を濃く残しているというわけです。

面白いのが、この楽器のベルの縁に“角”がついていること。

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平たく折曲げられていないので、芯金は現行品と同じワイヤーリングでしょう。これは多分マウントバーノン時代のベルで、フレンチビード用に前もって折曲げてあったものを流用したのではないかと思います。もちろん、サイドシームが採用されています。

そんな“マウントバーノン期の面影”がこの楽器のいろんなところに残されていて、なんだか進化途上の生物みたいな魅力。トラッドジャズのラッパ吹きとしてモチベーションが高まります。

そして、何よりも特筆すべきだと思うのは

“手作業で非常に丁寧に作られている”

ということです。
現代の先端技術がない時代に、組付けのズレやハンダのはみ出しなどが一切なく仕上げられているのです。
以前に長らく使用していた1980〜90年代のBachは雑な仕上げのものが多かっただけに、手にした瞬間からクオリティの違いがわかりました。全ての部品がピッタリと接合され、丁寧に仕上げられている為、楽器を持つとコンパクトに感じられたほどです。

ただちょっと心配なのは、ピストン内部の無数の錆。何度かこの錆から穴が空いて息漏れを起こしています。

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今のところ発見次第アロンアルファで埋めていますが、ゆくゆくはピストン全体をメッキ&再ラップしようと思っています。アーリーエルクのピストンにはシリアルナンバーが刻印されているので、入れ替えずに使っていきたいです。

手打ちの刻印や、飴色に変色したラッカー、抜けきった音色。多少気を遣いますが、ヴィンテージ楽器の味わいを楽しんでいます。

このアーリーエルクを手に入れた43歳の誕生日、ただ単に上手くなりたかったこれまでの自分とはお別れをしたような気がします。



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YAMAHA 11C4

僕が使用しているトランペット/コルネットのマウスピースは

YAMAHA 11C4

というものです。

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このマウスピースはかつてヤマハの下位機種に付属していたので「初心者用」扱いされていますが(ヤマハのカタログには「初心者から上級者まで」と書いてあるんですが)、僕は素晴らしいマウスピースだと思っています。

Bach 7Cのコピーと言われますが、リム径以外は全く別物です。
まずリム面(唇の触れる面)が、7Cは内側に向かって高くなる形状ですが、11C4はフラットで丸みを帯びています。僕もですが日本人は前歯の角度が「出っ歯」気味な場合が多く、リムの内側が高いと出っ歯と相まって唇に刺さる感じがあると思います。11C4は丸みのあるフラットなリムで、唇に優しく、柔軟性もあります。

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ハッキリしたエッジのおかげで踏ん張りも利き、またリムから垂直に掘られた“えぐり”のおかげで唇がカップ内壁に触れて音が止まってしまうのを防いでくれます。

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もはや超持久力マウスピースな11C4。カップが深いのでハイノート向きではありませんが、全音域に渡って直感的に吹けるのが気に入っています。音色はメロウ寄りですが、スピード感のある音も吹ける万能なマウスピースです。

以前は中川モデル11C4“N”を長いこと使用していました。タイトなスロート&バックボアで抵抗を強めてハイノートを吹いていたわけです。しかし音色や奏法(息の使い方)等に疑問を持ち、スロート拡張など試行錯誤を繰り返した結果(何本も無駄にしました)標準モデル11C4のバランスに落ち着きました。ハイノートよりも大事なものがあります。
(※中川モデルを否定するものではありません。中川氏自身ハッキリと「11C4“N”は短期的な結果を出したい人向け」と仰っています)

スタンダードなマウスピースは本当に良く出来ています。常にメーカーは製造し、ほとんどのプレイヤーが卒業して手放すので、不用品が安価で簡単に手に入ります。

ただ僕が一点だけ手を加えているのは、金メッキ加工です。

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僕は顔に似合わず金属アレルギーだからです(楽器もハンカチで包んで持っています)。唇の荒れを以前はバテ(プッシュし過ぎ)だと思っていましたが、金メッキのマウスピースにしてから唇が痛いと思ったことがありません。
金メッキのリムは多少滑りますが、そのぶん息をしっかり使って吹くようになりました。そのせいもありますが、音色は艶やかで、まとまる感じ。
楽器屋に金メッキを頼むと1ヶ月ほどかかるので、気軽にいろんなマウスピースを試せませんが、そのぶんマウスピース地獄に陥らずに済み、演奏に集中出来ているような気がします。手間暇かけてたどり着き、吹き込んで慣らした現在のセッティングはかけがえがありません。
僕は使用する全てのマウスピースに金メッキをかけています。

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(左から、11C4 long cornet、11B4、11C4、11C4N、11C4Nスロート#26)



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C.C.シャイニー・エアロケース

トランペットのケースは色々なものが世に出回っていますが、僕はほとんど楽器を1本しか持ち運ばないので

“コンパクトなシングル・ハードケースが良い”

と思っています。 楽器以外の荷物量はその都度違うので別にし、楽器を常に一定の環境に保っています。
僕が使っているケースは、これです。

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C.C.シャイニー・エアロケースと同じものですが、“Eastman”というステッカーが貼ってありました(剥がれました)。だいぶ使い込んでいるのもありますが、この色合いや表面のシボ加工はEastman独自のものらしいです。
ハードケースなのに超コンパクト。飛行機内はもちろん、高速バスの狭い網棚にも収まります(低予算の旅でも助かります)。
内部クッションは楽器型にくり抜かれていて防御力十分。

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楽器以外にマウスピース1本分のスペースと、オイルなどが入る蓋付の小物入れがあります。僕は蓋の内側アンコに鉛筆などをむりやり差し込んでいます。

最近はストラップ付のケースが便利という風潮ですが、僕は楽器を視界から外して背負う気になれず、ぷらぷらと邪魔になるので付けていません。持つ / 置く、これがシンプルで安全です。

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背負うことをメインに考えて作られたこのケースは、持ち手が適当な作りであっという間に壊れてしまいました。丈夫な革製の持ち手に交換。

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蓋の金具もシンプルで丈夫なものに交換。
でも最近の新品は持ち手や金具が丈夫になっているようです。

このケースの欠点は、まず置いたときや楽器出し入れ時の安定感がイマイチなこと。そして、軽くぶつかっただけでパアーン!と大袈裟な音がすること。…まあそれでも中身の楽器が凹んだり傷ついたりしたことは一度もないので、入手以来ずっと使い続けています。

新品は2万円以上と結構するようですが、僕のは中古で¥8,000で購入したもの。
それなりに良いケースだと思っています。



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